元よりハル相手に剣で勝ち目はないんだけど、ある程度の劣勢を演じきり。
私は逃げるように再び舞い上がる。
「はぁ…っ。」
この場から離れてようやく、涙が溢れる。
ハルにはどうせバレてるんだろうな。
顔がめちゃくちゃ怒ってたし、悲しそうだったし、何より早くここを離れろと言わんばかりの荒い太刀筋だった。
「不器用は、お互い様だね…。」
似たもの同士の兄妹だなとしみじみ思う。
兎にも角にも、悲しむのは後にしよう。
私は胸の痛みから一度目を逸らし、南の国境へ大急ぎで飛んで行く。
「ハル様!姫様は一体どうされたんです!?」
「この街の者が姫様に何をなさったんですか!?」
そう。
この作戦で本当に辛い思いをするのは、私ではない。
広義で国を守るために私が取った行動も、当事者からすれば訳もわからず街を滅ぼされただけ。
この場で、作戦を知るハルはここから私を責め、問いただす状況に耐えねばならない。だからこそ、私を誰よりも大事に思うハルに昨日謝った。
「…落とし前はつけさせる。復興も国で責任もってやる。」
「納得出来兼ねます!こんな…恐ろしい力で街一つ消し去り、姫様は何を考えておられるんですか!?」
「リンのことは俺が何とかする。まずは街の連中に詫び入れて、進軍に備えて城の守りを固めるぞ。」
「その進軍も姫様に任せるという話ではなかったんですか!?こんなことをなさる姫様に任せていいんですか!?」
内心、ハルは怒りで震えている。
何も知らないくせに勝手なことを言うなと。怒りに任せて叫びたい気持ちを抑えるのは、それも結局私の策を成立させるため。
私の覚悟を、守り抜くため。
「…リン。」
私が飛び立った遥か彼方を見据え、ハルが悔しそうに呟く姿を。国王軍も街の人達も悲しそうに見ていた。
あの姫は、ハルさえも裏切ったのかと。
甚だ勘違いではあるものの都合の良い解釈に救われ、皆がハルを憐れむので、そこからは特段ハルは責められることはなかった。

