(一)この世界ごと愛したい




パルマの街上空に到着。そこで地上の住民たちに目を向ける。



洗濯物を干していたり。


まだ朝早いのに元気な子供は駆け回っていたり。


さっそく仕事をしている人もいる。




…穏やかで、いい街だな。





「迷えば、剣は鈍る…。」




平和で、みんな楽しそうに笑っている。




でも。



迷わない。


揺るがない。


泣かない。





「…ハルの言う通りだ。」



生半可な覚悟では、この光景を滅ぼすなんてできそうにない。


気を抜けば、そんなことしたくないと逃げ出しそうになる身体。溢れ出しそうになる涙。震えそうな手。




…でも、私がやらなきゃいけない。





「自分勝手な正義で、ごめん。」





私はそっと、炎を灯す。


その炎はこの幸せ溢れる街に落とされる。




民の笑顔は忽ち恐怖へ変化する。




みんながちゃんと避難を終えるまでは、不燃の炎とそうでない炎を使い分ける。


怪我なんてさせるわけにはいかないけど、安心させてもあげられない。この力加減に胸が痛む。




「あ、あれは…姫様では…?」


「姫様の炎の魔法だっ!!!」


「何故こんなことを!?」


「逃げろ!とにかく走れ!!!」




これで、いい。


どうか早く逃げてね。元気でいてね。




誰もいないと思われる住宅、まだ開店前のお店、人通りのない道は既に火の海となり可燃の炎で燃え上がる。



恐怖の顔も、叫びも、怒りも。


全部受け止める。今は無理だけど、叶うならいつか謝りたいと思う。殴られても斬られても仕方ないと思う。




それでも今は、ただ早く。



ここを離れてほしい。




…私の涙が、溢れる前に。