(一)この世界ごと愛したい




仮にも王族。仮にも長男。


そんな人が、自分の国が滅んでもいいなんて。そんな悲しいことを言わないでほしい。




「楽じゃ、ないよ。」


「知ってる。だから意地でも守る。明朝のことも、情報規制もやってやる。」


「…ありがとう。」


「明日も一緒に晩飯食うぞ。」




分かってしまった。


よく似ている、ハルとアキトの決定的な違い。



愚直に真っ直ぐ、自分の言葉を私に向けるアキト。その言葉は時に核心を射抜き私に刺さる。それが時々怖いとも思う。


だけどハルは、いつだって私に逃げ道を与えてくれる。ハル自身を傷付けながら、どこまでも私を甘やかそうとする強い優しさ。





「まだまだハルには敵わないね。」


「当たり前だ。」


「…今日はハルと寝ようかな。」


「その天性の可愛さなんとかならねえのか?」




ならねえです。


私にはどうしようもねえです。






「っ…!?」


「もう泣き止んだか。」



私の腕を掴んでいたハルは、突然私をそのまま抱えベッドに運ぶ。


そんな私の顔を見て、少し笑ったハル。




「…泣いてない。」


「おー。立派になったな。」



泣いていたのなんて、この顔を見られれば一目瞭然にも関わらず。泣いてないと言い張る私を、知っててハルはまた甘やかす。



こうして甘えられるのも、今だけだと。


私達は痛いほど分かっているので。今日は二人で、仲良く眠ることにしました。





「…ずっと思ってたけど、ハルってなんで結婚出来ないんだろうね。」


「馬鹿。出来ねえんじゃなくてしねえんだ。」



妹の立場から見たって、カッコいいし強いし頼りになる。おまけに優しい。欠点を言うなら少しうるさいところ。


女性人気もすごいはずなのに。




「お嫁さんほしくない?」


「餓鬼の頃リンが嫁になるって言ってくれたからなあ。」


「昔の話でしょー?」


「俺には今も昔も関係ねえよ。」



そんな幼い妹からの言葉を律儀に覚えてるのもすごいけど、それを信じて貫いているのもまたすごい。


ハルらしいと言えばそうだけど。




「俺は同時に二つのもんは守れねえからな。」


「えーそう?ハルは無限に守れるじゃん?」


「現にお前を守りきれてないってのに。情けねえこと言わすな。」


「…充分守ってもらってるよ。」




今だって。


怖がる私の側に来てくれて、こうして支えてくれているハルがいるから。私は頑張れる。





「俺の人生はリンに捧げると決めてる。だから結婚はしねえ。したいとも思わん。」




そう言って、私を強く抱きしめるハル。



ハルが結婚してしまったら、自ずとこんな時間もなくなってしまうのかなと。


そう思ったら、やっぱりまだ結婚しないでいてほしいなと。



そう思った私に、兄離れはまだ難しい。






「おやすみ、リン。」




いつもの腕枕で。


優しい声を聞いて。


温かすぎる腕の中で。




気付いたら震えも涙も止まっていた私は、そっと来たる明日に備えて眠った。