仮にも王族。仮にも長男。
そんな人が、自分の国が滅んでもいいなんて。そんな悲しいことを言わないでほしい。
「楽じゃ、ないよ。」
「知ってる。だから意地でも守る。明朝のことも、情報規制もやってやる。」
「…ありがとう。」
「明日も一緒に晩飯食うぞ。」
分かってしまった。
よく似ている、ハルとアキトの決定的な違い。
愚直に真っ直ぐ、自分の言葉を私に向けるアキト。その言葉は時に核心を射抜き私に刺さる。それが時々怖いとも思う。
だけどハルは、いつだって私に逃げ道を与えてくれる。ハル自身を傷付けながら、どこまでも私を甘やかそうとする強い優しさ。
「まだまだハルには敵わないね。」
「当たり前だ。」
「…今日はハルと寝ようかな。」
「その天性の可愛さなんとかならねえのか?」
ならねえです。
私にはどうしようもねえです。
「っ…!?」
「もう泣き止んだか。」
私の腕を掴んでいたハルは、突然私をそのまま抱えベッドに運ぶ。
そんな私の顔を見て、少し笑ったハル。
「…泣いてない。」
「おー。立派になったな。」
泣いていたのなんて、この顔を見られれば一目瞭然にも関わらず。泣いてないと言い張る私を、知っててハルはまた甘やかす。
こうして甘えられるのも、今だけだと。
私達は痛いほど分かっているので。今日は二人で、仲良く眠ることにしました。
「…ずっと思ってたけど、ハルってなんで結婚出来ないんだろうね。」
「馬鹿。出来ねえんじゃなくてしねえんだ。」
妹の立場から見たって、カッコいいし強いし頼りになる。おまけに優しい。欠点を言うなら少しうるさいところ。
女性人気もすごいはずなのに。
「お嫁さんほしくない?」
「餓鬼の頃リンが嫁になるって言ってくれたからなあ。」
「昔の話でしょー?」
「俺には今も昔も関係ねえよ。」
そんな幼い妹からの言葉を律儀に覚えてるのもすごいけど、それを信じて貫いているのもまたすごい。
ハルらしいと言えばそうだけど。
「俺は同時に二つのもんは守れねえからな。」
「えーそう?ハルは無限に守れるじゃん?」
「現にお前を守りきれてないってのに。情けねえこと言わすな。」
「…充分守ってもらってるよ。」
今だって。
怖がる私の側に来てくれて、こうして支えてくれているハルがいるから。私は頑張れる。
「俺の人生はリンに捧げると決めてる。だから結婚はしねえ。したいとも思わん。」
そう言って、私を強く抱きしめるハル。
ハルが結婚してしまったら、自ずとこんな時間もなくなってしまうのかなと。
そう思ったら、やっぱりまだ結婚しないでいてほしいなと。
そう思った私に、兄離れはまだ難しい。
「おやすみ、リン。」
いつもの腕枕で。
優しい声を聞いて。
温かすぎる腕の中で。
気付いたら震えも涙も止まっていた私は、そっと来たる明日に備えて眠った。

