頭の中で考えを巡らせる。
部屋にいつも置いてある基盤と駒。それを使いながら自分の動きをシュミレーションしてみたりする。
ある程度、段取りは固まった。
「作戦はどうだよ。」
ノックをすることもなく、部屋の入り口から勝手に入ってくるのはいつものこと。
「…ねえ、ハル。」
「あ?」
「どう考えても、しんどいのはやっぱり私じゃないみたい。」
「…まあな。」
火龍の力に溺れる堕落した姫を演じる私。それを制止するハル。そして国王軍。
そこから己が力を誇示するように、南東を蹴散らす私の姿はきっと、自己陶酔した愚かな姫に映るだろう。
その状態に持って行き、国を追放してもらえば私は城を出るだけでいいけど。残された事情を知る人達は、ただただ失墜した私への罵声を受け止め続けることになる。
「ごめんね。」
「謝るくらいなら止めちまえ。」
「……。」
「生半可な覚悟じゃ無理だ。特にお前は、自国愛が強すぎる。」
ハルはスパッと私の策を切り捨てようとする。
その気持ちも、理解しているつもりだ。
今まで文字通り命を賭けて守り続けてきた地を、民を、初めて自分で傷付けようとしている。
「ちょっとは寄り添うとか出来ないの?」
「俺は止めろっつってんだよ。」
「じゃあいいですー。とりあえず明日、良きタイミングで全力で私を止めてねー。」
「……。」
ハルは黙ったまま、私との距離を詰める。
「馬鹿だな、お前は。」
「……。」
「震えるくらい怖くて嫌なくせに。」
「うるさい。城内の情報規制忘れないでよ。私の演技力、無駄にしないでね。」
私の手は、気持ちとは裏腹に。
例え演技であっても、人を傷付けないとは言えども。それでも怖いと震える。
「…リン。」
「大丈夫。その後はそのまま南に向かう予定だよ。予定通り東の軍も追い払ってくるから。安心してここで待ってて。」
「…なあ、リン。」
ハルが何かを伝えようとしている。
しかし、私の耳は聞きたくないと言っている。
「明日に備えてもう寝るね。」
「リンっ!」
逃げるように再びハルと距離を取ろうとしたが、腕を捕まれ止められる。
「今ならまだ間に合う。お前の言う鳥籠で、俺はお前を一生守って生きていきたい。」

