(一)この世界ごと愛したい





ハルに稽古場へ連れ出されたるう。


互いに既に武器を持って、向かい合う。




「随分楽しかったみてえだなあ?」


「かなりな。」


「…の割に、辛気臭えツラじゃねえか。」


「ケジメつけてきた。」




自分の気持ちに、折り合いを付けたと。


るうはハルにそう言った。




「あーそう。」


「…ちょっとは慰めろよ。」


「誰が慰めるか。人のリンに手出しといて何言ってんだてめえ。」


「それもそうだな。」




ほぼ無意識に打ち合いが開始。


この稽古とも言える、決闘とも言える打ち合いを、何千何万と繰り返してきた二人には始まりの合図もいつからか必要なくなっていた。





「…意外だった。」


「何がだよ。」


「リンがその石、お前に託すとはな。」


「…そう言えばハルに渡そうと思ってたとは言ってたな。」




激しく打ち合いながらも普通に会話が成り立つ、摩訶不思議な状況も二人にとっては通常運転。




「だろうな。」


「悪かったな、俺がもらっちまって。」


「…リンの中で大きく心が動いた証拠だ。」


「…?」



私の中で確かに心が、動いた。


今まで目を向けることがなかったるうの想いに、動かされてしまった。




「リンは基本的に自己完結型。俺以外に弱みは見せねえし、頼りもしねえ。それが周りへの優しさだと思ってるからな。」


「そうだな。」


「…その石はリンの命に共鳴する。」


「命?」



まだるうには話していない、石の秘密。


話すべきかどうか迷ってやめたのは、その時が来たなら、話さなくてもるうは気付くんじゃないかなと思ったからで。




「簡単に言えば、リンが死ねばその石も消えてなくなる。だからリンに何かあった時、何かしらの反応を示すはずなんだ。」


「……。」


「お前の気持ちが、リンに届いた何よりの証拠だろ?」





今までならあり得ない。


私の窮地とは即ち、とんでもない死地。



そんな場所に助けに来てほしいと頼めるのは、今までハルを置いて他にはいないと思っていた。