だから不思議だった。
祠があるということは、誰かが火龍のためにそれを造ったということ。
忌み嫌われるはずの、力のために。
「私も同じ見解でした。火龍の力を恐れた者たちが、その力への恐怖から封印の意味も兼ねて祠を造ったのかとも考えられた。しかしそれにしては些か腑に落ちない。」
そう。
封印したいと思う程にその力を恐れていたのなら、もっと厳格に…それこそ神職の側にでも造って神にでも縋ればいいのに。
「そしてあなたが生まれた後。父上は確かに恐れはしていたものの、あの祠を見た後少し安堵されていた。」
パパも、同じことを…思ったのかな。
「こんな空気の澄んだ、心清まるこの場所に祀ったと言うことは、火龍が穏やかに眠ることを願うように。きっとそんな優しい祈りと感謝を…当時の民たちは伝えたかったんでしょうね。」
「私も、そう思った…。」
私の思い描く火龍とは、人々を苦しめ恐怖を与えるだけの正に厄災。
神話書記にもそう記されていたし。
でも実際は、そうじゃなかったとしたら…。
「私さえ、使い方を間違えなければ…。」
「そこは心配いらぬでしょう。父上の理想を遥かに超えて、あなたはこの国を心から思っているように見えます。」
「…また、ここに来てもいい?」
「それはそれは喜んで。」
道に迷ったら、進むべき道を見失ったら、ここに来ようと思う。
きっと、火龍が道を教えてくれる気がする。

