「だからって東に目を向けすぎると、今度は違う方角から敵が来るからね。」
「…ああ。」
ハルは、特段私に出陣を命じることなく。
私の考えだってきっとハルにはお見通しで。だけどそんなハルの憂いも私には分かるから。
「…お前を傷付けずに済む方法を考えれば考えるほど、俺に出せる答えは一つだ。」
「うん。号令はいらない。その時が来たら勝手に飛んで行くから。」
「じゃあお前への指示は、ちゃんと無事に戻って来ることだけだ。」
私は笑顔で頷く。
「東からの進軍は来月に入ってからだよ。今月はきっとまだ動かない。」
「俺も同じ読みだ。」
「だから先に旅行いって来るねー。」
「……。」
旅行の話をすると、ハルは急にまた拗ねる。
私はそんなハルが面白くて思わず笑ってしまう。
「私またふらっと戻ってくるから。その時ハルも落ち着いてたら、次は一緒に行こうね。」
「ふらっと…ね。」
「空のお散歩も行こうね。三人で行くのはちょっと面倒だから二人で行こう。」
「メルヘンな散歩だなあ。でもリンと二人なら、俺はその辺の散歩で構わねえよ。」
その辺の散歩なら逆に三人でもいいじゃんと思ったが、言わなかった。
楽しいことはこれからもたくさんある。
だから寂しいお別れも、悲しくはないよ。

