昔、月に溺れたことがあった。
この表現が正しいのかなんて、私には分からない。
でも確かにそう思った。
そう思うような、何かがあった。
学校帰りの薄暗い竹薮の中から見た、大きな月。
通常の月の何十倍も大きくて、あまりの眩しさに目が眩みながらも、迫ってくる恐怖のあまり、動悸が激しくて息ができなかった。
でも、どこか懐かしかった気もする。なんて言っても、本当に少しだが…
BB弾ほどの小さな小さな安心と、覆い被さるような大きな不安。大きな大きな負の感情は、本当に微かな安心感なんて吹き飛ばして、闇の中に私の足を引きずり込んでしまう。
この暗闇こそが私を走らせる原動力だった。
無我夢中で走ったから、帰路がどうだったかなんて覚えていない。
