「若には、婚約者がいるよ。」
「…え?」
見慣れた景色が流れてきた中、沈黙を破ったのは彼の静かな声。
思わず彼の方に振り返ると、綺麗な横顔は真っ直ぐと前を向いていて、冷静で落ち着いているようだった。
でも、あのとき縁側から早歩きで遠ざかったときと同じような感じがする。
やっぱり表情が硬いその姿に、どうしたんだろうと不思議に思った。
「はい、とーちゃく」
ぼんやりとそんなことを思っていれば、車が静かに停車した。直ぐそこに見慣れた細道への入り口が見える。
間延びした口調でそう告げてくれた彼はゆっくりと私の方を向いた。



