樋口さんは私を見ながら目を少し見開かせていたけれど、直ぐに真剣な目つきをした。
「いや、礼を言うのはこっちだ。愛子を庇ってくれて本当に感謝してる。巻き込んで悪かったな。怪我は大丈夫か」
私が勝手にやってしまったことなのに。
偉い人に頭を下げさせてしまったことに、逆に申し訳なさが込み上げてきた。
わざわざそう言ってくれた樋口さんに品位の高さを感じて、やっぱり凄い人なんだと素人目線で思ってしまう。
「私は全然。あの…愛子さんは?」
つい、樋口さんにつられて馴れ馴れしく愛子さんと呼んでしまった…。
そんな今どうでもいいことを思いながら、問いかける。
樋口さんは、そっと庭園の方に視線を戻しながら、
ぽつり、ぽつりと低い声で静かに話してくれた。
「ああ、大丈夫だ。本当すまない。……あの日、繁華街で俺が女に絡まれてる間にいなくなっちまった」
意外にも事の成り行きを話し始めてくれた樋口さんに、私も黙って樋口さんの話に耳を傾けた。
「完全に俺の失態だ。俺のせいで、何かと周囲から攻撃されてる愛子をちゃんと気に掛けてやれなかった。あいつ、あんなんだから余計誤解されるけど本当は弱いこと俺は知ってるはずだったのに」



