「(……私の帽子、あんなところに…)」
いつのまにか転がり落ちていた黒いキャスケットを遠目に見つけ、自分が勢いよく飛び出したことを漸く実感した。
本当に反射的だった。
狂気的に叫びながらナイフを振りかざす金髪の女性を視界に捉えた瞬間、身体が勝手に動いていた。
そこからはスローモーションのようにひとつひとつの景色がゆっくりと流れて、音も何も聞こえなかった。
気づいたらこんなことになっているし、もう何がなんだか自分でもよく分からない。
何やってんだろ…
そう思いながらも後悔という気持ちはなくて、寧ろ隣の彼女の無事な姿を見て安堵している自分に戸惑った。
やっぱり微かに肩を震わせている彼女は、この前会ったときよりも遥かに小さく見えて。
そんな今の彼女を見ていると、クルクマの、苞葉の中にひっそりと隠れている本当の小さな花を見つけたときのような、そんな感覚がした。



