「っ、」
手の中で震える携帯を無意識に強く握り直した。
着信を知らせる文字を見た瞬間、
一気に胸の奥が凍っていくような感覚に陥る。
「…はい、…はい、分かりました。直ぐに伺います。はい、失礼します。」
電話をそっと切ると、踵を返し家とは逆方向に足を進める。
ただ無心で、足を動かすことだけを考えた。
思い悩んで仕事に集中できなかった反省も、着信音で高鳴った鼓動も、期待して画面を見た浮ついた気持ちも、習慣になっていた甘い声も。
何もかも消え去って、残るのはただ『早く足を動かせ』という無機質な感情だけだった。
鞄の中で再度震える振動には気づかないふりをして、色のない世界を足早に通り過ぎていった。



