「ぁああの、……姐さんが『ルカに任せるわ』と…」
「……あやめさんが?」
突然の思わぬ名前に思考が止まる。
あやめさん…樋口組の親分であり若頭の父である樋口雅紀組長の妻、つまり若頭雅人の母あやめさんからの頼みごと。
蒼褪め始めた千田は、俺が断れないと分かっててあやめさんからの言葉をそのまま伝えてきた。
樋口組の男は誰も頭が上がらないほど、あの人は強者だ。
組の影の権力者のような、そんな存在のあやめさんに任せると言われて断れるわけないじゃないか。
「………あーもう分かったよ。で、代理でもなんでもいいけど当てはあるの?」
苛々しながら胸ポケットから煙草を取り出し火を付けた。
ゆらゆらと灰色の煙はまだまだ青く澄み切った空に吸い込まれていく。それをぼーっと目で追ってから、千田へと視線を戻した。
とにかく眠い。
そんな恨みも込めて静かに聞く。



