he said , she said[完結編]

この宿には和室タイプと洋室タイプがあるが、直弥は洋室を選んでいた。
和室も布団ではなく畳ベッドなのだが、落ち着いた和の情緒とカップルの初夜はどうもしっくりこなかった。
安眠を求めているわけではないのだ。

部屋に運ばれてくる宿自慢の懐石料理に二人で舌鼓(したつづみ)をうち、その後は一人ずつ露天風呂に入る。
もちろん直弥が先で瞳子が後だ。混浴でないのなら、時間がかからない男のほうが先にさっさと済ませるべきだろう。
そうすれば、女性は急かされることなくゆっくり露天風呂を堪能できる。
これくらいは我慢でもなんでもない。本番はその後なのだから。

パジャマも持参していたようだが、風呂から出てきた瞳子は備えつけの浴衣を身につけていた。
化粧を落としているが、湯上がりは女性を何倍にも魅力的にみせてくれる。
内側から上気した肌に清潔な石鹸の香りだ。そこにほのかに檜の残り香もまとわせて。

「いいお湯だった」
浴衣の袖口を指でにぎって、はにかむように言う。

そんな瞳子を抱きすくめると唇を合わせた。
唇を割って舌を絡めても彼女は抵抗しなかった。