he said , she said[完結編]

会計を終えるとマダムはちらと意味ありげな目くばせをよこした。
ぐずぐずと見送ったりせずに、すぐに引っこんでドアは閉められる。実に心得ている。

この店は半地下にあり、地上に上がるまでのコの字型の踊り場はちょっとしたスポットになっているのだ。

ごちそうさまでしたと、やや儀礼的に口にして階段に足をかけようとする瞳子の腕を、やんわりとしかし力をこめて捕まえる。
薄闇のなか振り向く彼女の表情は知れない。こわばった腕からは緊張が伝わってくる。
ひそかに待ち望んでいた瞬間なのか、それとも———

できればハンドバッグとプレゼントの紙袋で、彼女の両手をふさいでおきたかった。
小ぶりな袋だからか、瞳子は二つとも片方の手に提げている。

腕を捕らえた手をそのまま肩へとすべらせ、両手で彼女の肩を包んだ。上質のニットは想像どおりの滑らかな手触りで、直弥の動きを助けてくれる。
そっと顔を寄せる。

が、唇が触れる前に瞳子は後ずさった。空いている片手が直弥の胸元につっかえ棒のように当てられる。
久方ぶりに味わう拒絶だった。