he said , she said[完結編]

ちなみにいわゆるお嬢様と呼ばれる人種にも、食指が動かなかった。
直弥自身が、家柄や財力といったバックボーンを持たない、いわゆる成り上がりだからだ。

「うちの娘を粗略にしたらただではおかない」と権高い両親がセットになったわがまま娘など、こちらから願い下げだ。
自分と同じようなサラリーマン家庭の育ちで、一般企業で働いているOL、となるとやはり仕事を通しての出会いが無難だった。
互いの身元がある程度知れるというメリットもある。

暮林瞳子。
25歳で中堅の建設機械メーカーの経理。社のプロジェクトメンバーに名を連ねるからには、人柄や仕事ぶりで信用を得ている。
大いに結構ではないか。

待つこと三十分ほど、『暮林です』と返信が届いた。
『すごく評判のいい展覧会みたいですね。わたしが誘っていただいていいのか、恐縮です』
小さな汗マークの絵文字が末尾に付いていた。
『週末でしたら、急用が入らないかぎりだいじょうぶです』と続いている。

ということは定期的にデートをするようなステディな相手はいないということだ。
小さくガッツポーズをする。

最小限の絵文字にやや他人行儀な文面だが、少しずつくだけていくだろう。うまくいけばの話だが。
直弥はスケジュールをにらんだ。瞳子とのデート、の前に仕込みを万全にするためだ。