he said , she said[完結編]

その夜、さっそく瞳子の通信アプリのアカウントに送るメッセージをひねる。

『はじめまして、片岡です。今日は突然誘って驚かせてしまったらすみません。
絵画の展覧会を観にいくのは何年ぶりか思い出せないくらいです。来月末まで開催しているみたいなので、瞳子さんのご都合のいい日を教えてください』

初めて「瞳子さん」と下の名前で呼んだ。さんづけだから受け入れられるだろうとひとりごちて、送信をタップする。

夜の酒席で「アカリですぅ」「マユコでーす」と自己紹介する女性に慣れてしまっていた。
名字から距離を縮めていくまどろっこしさ。しかしそれがいま自分が求めているものだ。

この数年で、アバンチュールのあるなしを含め、あらゆる種類の華やかなりし女性と関わりを持った。

キャビンアテンダント、アパレルや広告代理店で働く女、売れないモデルやタレント、二流どころのアナウンサーやリポーター…
起業家を名乗る女性もいた。
自意識過剰でプライドの高い女性たちと一通り刺激的な時間を過ごし、面白がりながら、どこかで軽蔑している自分に気づいていた。