he said , she said[完結編]

「その、今のシステムの保守の方…」
瞳子の興味を引いたようだ。
「なんだか孤島の灯台守(とうだいもり)みたいですね。最後の一艘まで見送って、一人だけ島に残って」

孤島の灯台守か。なかなかブンガク的な表現をするではないか。
感性、が彼女を解き明かすキーワードなのかもしれない。
分かりやすいブランド物や高価な品ではなく、自分の心の琴線に触れるものを大切にするタイプだ。

同時に彼女を誘う口実が見えてきた。

そういえば、とふと思い出したように口にする。
「いま六本木で印象派の絵画展をやってますよね」

「あ、電車の広告で見ました」

反応ありだ。

「僕の友達が広告代理店で働いてるんですけど、そのチケットがスポンサー筋で回ってきたんです」
少し間をおく。
「暮林さん、よかったらいかがですか」

ここでキッパリ断られたら、彼女には現在恋人がいる、もしくは脈なしと判断すべきだろう。

瞳子の表情にはありありと戸惑いの色が浮かんだ。