he said , she said[完結編]

「アメリカ “では” とかヨーロッパ “では” とか、欧米を引き合いに出して日本を落とす人のことを揶揄(やゆ)して出羽守って呼ぶらしいですよ」

瞳子がクスッとする。
「面白いですね」

素敵な笑顔ではないか。安売りしないところがいい。
場の空気がほぐれたところで直弥はすんなりと「またぜひ」と口にすることができた。
短い言葉に意思をこめ、瞳子ははにかみながら「はい」と承諾の言葉を返してきた。

午後からはサカキのIT部門の責任者との打ち合わせだった。
中川という三十代の男で、小太りにメガネ、あまり息継ぎをしない早口の喋りかたといい、いかにもオタク然としている。

容貌はともかく、仕事ぶりは見事なものだ。
頭が切れ、こちらの意図を的確に汲みとって各部署に伝播し、さらにそのフィードバックを集約する、といった面倒なこともそつなくこなしてくれる。

クライアントでなかったらスカウトしたいくらい有能な人物だ。
こういった人材を社内のIT部門に抱えているところからも、サカキという企業のレベルの高さが(うかが)える。