he said , she said[完結編]

並んで歩くというのはなかなか新鮮なものだ。
隣の瞳子の身長は高すぎず低すぎず。150センチ台だろう。
自然とこちらを見上げるかたちになる。そうして直弥は彼女の美点を一つ発見した。

おとなしそうな外貌であるのに訴えかけてくる引力があると感じていたが、彼女は黒目が大きいのだ。
カラコン無しでこの大きさはなかなか希少だ。

あるいは彼女の両親も、産まれてきた女児の黒々と濡れた瞳から「瞳子」と名づけたのかもしれない。

オフィス街なのでランチタイムはどこも込むという話だったが、一軒目に入ったイタリアンですんなりとテーブル席に通された。
なにかの吉兆のようだ。

話術には自信があるが、まずは彼女の緊張を解きほぐしていかなければ。
距離を縮めようとすると遠ざかる、瞳子の男性へのこの警戒心は悪くない。

ヤリイカの明太子クリームソーススパゲッティが以前食べて美味しかったと瞳子が選んだので、「じゃあ僕も」とすかさず乗っかった。
初心(うぶ)な女性には、基本的なテクニックが有効だろう。

恋愛テクニックはさておき、出てきたパスタの味はなかなかだった。