he said , she said[完結編]

さすがに妙案は浮かばず、結局正攻法でアポイントを取りつけることにした。
プロジェクトのことでヒアリングしたいことがあると、瞳子の会社のアドレスにメールを送る。多少不自然かもしれないが仕方ない。

『メール拝見いたしました』という返信に胸がおどった。

都会の夜で、欲求と快楽が直結している出会いを繰り返していたせいだろう。
丁寧な文面がひどく清冽に目に映る。

お役に立つか分かりませんがとことわりながら、了承の文言が続く。
業務の性格上、五十(ごとう)日と月末月初に処理が集中するので要望に応えられないかもしれない旨が添えてあった。

会社員として実にそつのない返信だ。
下心を隠して女性に近づくのはいつぶりだろうなどと思いながら、直弥は(せわ)しくスケジュールに目を走らせた。

二日後の11時半にアポイントを取ることに成功した。
11時半という中途半端な時間にしたのは、ランチにこぎつけようという狙いだが、さてそこまで首尾よくいくだろうか。