he said , she said[完結編]

なるほどと受けてから、さりげなく切り出した。
「そして暮林さんが経理なんですね」

「ええ、経理には大きく出金と入金がありますが、暮林は出金の担当です。もちろん入金の業務のことも把握しておりますので、どちらのシステムのことも聞いていただいて大丈夫です」

直弥のなかで瞳子のポイントはさらに加点された。
経理に求められる資質は、処理の正確さや速さといったことより、まずはモラリティだ。
出金業務は社における経費の実態や、社員のプライバシーなどに密接に関わることになる。社長の給与だろうと振り込むのは経理担当の社員なのだ。
人間性も考慮して配属しなければならない。
彼女は真面目で(わきま)えがあり仕事はきちんとこなすと、会社からそう評価されているということだ。

あとは、どう二人で会って話す機会を作るかだ。

定期的にサカキを訪問する機会はあるが、ドラマのような偶然のすれ違いは期待できそうもない。
直弥が立ち入れるのは、基本的に受付と応接スペースのみだ。瞳子がどのフロアで働いているのかも不明だ。