he said , she said[完結編]

そういうことかと寺島は表情をゆるめ、ご自慢の滑舌で喋り出した。

「わたしは総務部の中で、人事を主に担当しております。村瀬は渉外、暮林は経理です。
各々(おのおの)の業務は重なっている部分もありますので、連携をとりながらチームで仕事をしております」

目を見開いてこちらを覗きこむように語りかけてくる。
自意識が強い女だが、本人が思うほどの美貌ではない。大きな丸い目とぽってりした唇という派手やかな顔立ちだが、繊細さに欠ける。
大造りで、ともすれば暑苦しい印象に転びそうだ。
長身も相まって、最大限に褒めれば舞台映えしそうといったところだろうか。

「村瀬さんは渉外、ですか?」
直弥はメモをとる手を止めて聞き返した。

はい、とうなずく。
「村瀬は小学生の頃、お父様の仕事の都合で中国に住んでいたので、中国語がかなり喋れるんです」

それはそれは、と感心してみせた。
器量のわりに尊大な女だと思ったが、なるほどバイリンガルという自負心からか。
重たげなまつ毛が記憶のすみで(またた)いた。

「当社は生産・販売の両面で中国に拠点がありますので。契約の締結などでは専門の通訳の方をお願いしたりするんですけど。
細かい業務上のやり取りでも、英語よりやっぱり相手の国の言葉で話すと打ち解けてもらいやすので」