he said , she said[完結編]

翌日。
直弥は意図的な早足で、株式会社サカキの受付スペースにたたずむ寺島に近づいていった。
「お時間とらせてすみません」

いえいえと口の動きだけでつぶやいて、寺島が手にしている社名入りの封筒を開けた。むき出しで持つような真似はしない。
中からボールペンを取り出した。

「ポケットから落ちたのかな、どうもありがとうございます」
かるく頭を下げて受け取る。

「わざわざ足を運んでいただかなくても。次の打ち合わせまでお預かりしてましたのに」
愛想のいい顔をこちらに向けてくる。

昨日も思ったが上背のある女だ。176センチある直弥と目線がほぼ同じなのだ。
ローヒールを履いているが170センチ以上は確実にあるだろう。
その長身を誇示するように背筋を伸ばした立ち姿からも、元案内嬢という経歴に得心がいった。

モデル体型と呼ぶには骨格がしっかりしすぎているが、見栄えは悪くない。

「そこまでご迷惑はかけられません」
向かい合わず45度の立ち位置で、ビジネスのパーソナルスペースより踏み入った距離をとったが、避けるそぶりはない。
取引先のハンサムな若い男との立ち話にまんざらでもなさそうだ。