「ベリクリーデちゃんを…?」

「何故彼女を欲しがるか、分からないあなたではないですよね」

「…」

沈黙は、肯定の証だ。

厳密に言えば、ベリクリーデ・イシュテアという人間が欲しいのではない。

欲しいのは、その中身。

彼女の中に封じられた聖なる神と、そしてそれを封じ込めている光の『聖宝具』。

『カタストロフィ』の計画の為…そして、僕の望みの為に、不可欠なのだ。

同じことをするなら、羽久・グラスフィアでも構わないのだが。

シルナ・エインリーが羽久・グラスフィアを引き渡すはずがないし。

あいつの中身は、ベリクリーデ・イシュテアのそれよりも、ずっと凶悪だ。

ならば、ベリクリーデの方が良い。

「応じないなら、彼らの命は…」

「…君が何を、何処まで知ってるのか知らないけど」

シルナ・エインリーは、静かに言った。

人質の命を忘れた訳ではなかろうが。

「…今すぐ身を引くんだ。取り返しがつかないことになる前に」

「…笑わせないでくださいよ」

取り返しなんて、もうとっくにつかないんだよ。

…僕の脳裏に、あの日の光景が浮かんだ。

涙を流す、彼女の姿が。

あの日からずっと。

僕は、たった一つの目的を果たす為に生きてきた。

その代償が何であろうと、僕には関係ない。

「…さぁ、早く決めてください」

あなたには、元々選択肢なんてない。

生徒の命を守る為。

何より、羽久・グラスフィアを守る為なら。

他の命なんて、あなたにはどうでも良いものでしかない。

ましてやベリクリーデ・イシュテアの命など。

「中身」ごと彼女が消えてくれたら、シルナ・エインリーにとっても有り難いだろう?

ならば…。

「生徒の命が惜しくないんですか?あなたの可愛い…生け贄達が」

「…」

「だったら、まず一人や二人…」

殺してみせようか、と思ったが。

「…君だね?」

「は?」

「君なんだね。『禁忌の黒魔導書』の封印を解いて、禁書を世界中にばらまいたのは」

「…」

…あぁ。

成程、その件について、依頼を受けてたんだっけ。

ヴァルシーナからは何も指示されてないが、もう気づかれているのだから、話しても構わないだろう。

「えぇ。僕ですよ」

何を隠そう。

『禁忌の黒魔導書』を世に放ったのは、僕だ。

もっと正しく言えば、僕達、なんだけど。