一ノ瀬さん家の家庭事情。®️

「ムカついた、何にも知らない奴らにそんなこと言われて。違うのにって、思った。そしたら勝手に手が出てて…」

直君は優しい。

優しいから、本当のことを言えないでいた。

「一人で抱え込まないでいいんだよ、話したかったら話して。」

すると直君は堰を切ったように話し始めた。

「本当は、不安で、怖くて。知らない国だし、母さんたちは海外に行くって言うし。でも俺、母さんの幸せを壊したくなかったから…せっかく母さんが幸せになれそうなのに、俺のせいでそうならないのはもっと嫌だったから…」

紀穂さんも早くに旦那さんを亡くしていた。

直君を女で一人で育ててきた。

そんな母親の幸せを願うのはあたしたちと同じ。

「今までずっと一人だったから、いきなりたくさんの奴らと一緒に住んで正直戸惑った。フランスにいた時も家に帰っても誰もいなかったから。」

でも、と続ける直君は顔を上げてあたしの顔を見た。