「実は、あの日が初めて、ファンドーリナ公爵邸から外に出た日でした。それまでは、義母と兄の許可がなければ、外出することもままならず。二人の機嫌が悪い時は、離れに追いやられることもありました」

 そこでは折檻(せっかん)を受け、食事も寝床も用意されることのないまま、一夜を過ごしていた。

 本当ならこんな話を、デニス様の耳には入れたくなかった。けれどこれから公爵邸で共に過ごすのなら、知ってもらいたかったのだ。義母と兄の非道を。そして、ありのままの私の姿を。

「なんと……もしや、今でもそのようなことを?」

 案の定、正義感の強いデニス様は怒ってくれた。メイドの子だからと、そんな仕打ちを受けることは当たり前だと言わなかった。

 もう、それだけで嬉しさが込み上げてきて、思わず涙ぐんでしまった。