【Quintet】

 このピンチの切り抜け方法を模索していた沙羅の耳にインターホンのメロディが届いた。
悠真達はそれぞれ自宅の鍵を持っている。インターホンが鳴るのは来客の知らせだ。

「誰か来たみたい……」
『……うん。ごめん』

 星夜の抱擁から解放された沙羅はリビングの壁にかかるインターホンの受話器を取った。

{葉山様、ロビーにお客様がお見えになっております}

インターホンの相手はコンシェルジュだ。

「どなたでしょうか?」
{結城《ゆうき》様と仰る男性の方で、先週もこちらにお見えになっています}
「ユウキさん? ……先週って……?」

先週に来客が来たなんて話は初耳だ。ユウキという苗字にも心当たりはない。

『沙羅、貸して』

 横から伸びてきた星夜の手が沙羅から受話器を取り上げた。

『その人にはロビーで待つよう言ってください。……ええ、今からそちらに行きます』

無表情にコンシェルジュとの通話を終わらせた星夜は受話器を戻して沙羅に向き直った。

『下まで行ってくるよ。沙羅は家から出るなよ』

 固く引き締めた表情で星夜は足早に玄関を出ていった。ひとり残された沙羅は食後の紅茶を淹れながら、来客の素性に考えを巡らせた。