【Quintet】

 沙羅が作ったビーフシチューと星夜が作ったほうれん草のポタージュスープが並んだ食卓。初めての星夜との二人だけの夜に沙羅は緊張していた。

「ほうれん草のスープ美味しいっ! 星夜って色んな料理知ってるよね」

とろみのある鮮やかな緑色のスープはほうれん草とじゃがいも、牛乳が溶けていてクリーミーな味わいだった。

『ありがとう。俺は沙羅が作った料理が一番美味しいけどね。実家帰った時は沙羅の料理が食えなくて辛かったよ』
「星夜の実家ってどこにあるの?」
『青葉台だよ。でも俺の家はここだから。この家が一番居心地がいい』

 星夜の無邪気な笑顔がわずかに曇った。彼にとって“実家”はあまり好きな場所ではないらしい。

その気持ちはわからないでもない。沙羅にも苦手な場所がある。できれば二度と足を踏み入れたくない場所が。

 すぐに明るさを取り戻した星夜から赤面するような甘い言葉を言われてからかわれたり、美大時代の話を聞いたり、初めての星夜との二人だけの夕食では彼の内面を垣間見れた気がした。

 夕食の片付けをする沙羅と星夜の背後で掛け時計が午後8時を告げた。

「みんな遅いね」
『あいつらの帰りは夜中になるかもな。俺以外はレコーディングの真っ最中だろうから』
「星夜はレコーディング終わったの?」
『俺はレコーディングで何度もミスしてさ。悠真に帰れって言われちまったんだ』
「ミスしたって大丈夫? 体調悪いの?」

そう言えば帰って来た時も様子がおかしかった。