【Quintet】

 絶対音感に胡座《あぐら》を掻かずに努力を積み重ねたヴァイオリニスト、葉山美琴は今も世界中の音楽愛好家に愛され続けている。

「お父さんが一番好きなヴァイオリニストはお母さん?」
『もちろん。女性として一番好きな人もお母さんだよ』
「はいはい、知ってますー」

 運ばれてきたランチは野菜の天ぷら盛り合わせ、ほかほかの白いご飯、味噌汁、サラダ。
天ぷらは大きなエビが二つ、サツマイモ、なす、カボチャ、しいたけが重箱に敷き詰められていた。

『来年は3年生になる。そろそろ卒業後の進路を考える時期に入るね』
「まだ漠然としてる。フリーでやるにしてもピアノが入れる演奏会もそんなにないんだよね」

 音大卒業後の進路は様々。音大の大学院に進む者、海外留学する者、企業や団体への就職、学校の音楽の教員や演奏講師、アルバイトをしながらフリーで活動する音楽家も多い。

「お母さんはフリーで活動していたの?」
『美琴は音大を卒業してすぐに沙羅を産んだからね。1年は演奏活動を休んでいたよ。その後は楽団に所属しながらヴァイオリン教室を開いて講師をして、アメリカに行ってからはお父さんが美琴のマネジメントをしていたね』
「そういえばお母さんのヴァイオリンのCDはお父さんのレコード会社から出てる物が多かったね」

演奏だけで食べていけるほど音楽の世界は甘くない。