【Quintet】

 12月25日の正午前、東京メトロの九段下《くだんした》駅の出口を出た沙羅は目白通りを進んだ。向かう先は飯田橋の四ツ星ホテル。

指定された場所はホテル地下一階にある天ぷら料理の店。店の従業員に葉山と名乗ると奥の個室に通された。

「お父さん」
『沙羅ー! 会いたかったよう』

 個室の座敷で待っていたのは葉山行成。昨日アメリカから帰国した父と会うのは8ヶ月振りだった。

「昨日お父さんが帰ってくると思って、せっかくシーツ新しくしたのに」
『ごめんごめん。明日までここに泊まって明後日に家に帰るよ。年明けにはアメリカに戻るから、1週間は沙羅とのんびり過ごせそうだ。年内にお母さんの墓参りも行こうね』
「なんで家じゃなくてホテルに泊まるの?」
『沙羅が彼氏と過ごすクリスマスを邪魔したくなかったんだよ。天ぷら盛り合わせの重箱ランチにする?』

メニューを選ぶ父は事も無げに言い放ったが、沙羅は開いた口が塞がらなかった。

「……悠真と付き合ってること知ってたの?」
『悠真くんに報告は受けてるよ。沙羅が選んだのは悠真くんだったねぇ。うんうん』

 デートの後は親の顔を見るのが気まずいと友達が言っていた意味を身に染みて感じた。男に抱かれた翌日に父親と会うのは、非常に気まずい。

(お父さんはわかってるのかなぁ。彼氏と一緒に住んでるってことは、“そういうこと”をいつでもできるよってことで……)