【Quintet】

 店員の声に見送られて沙羅はパティスリーKIKUCHI渋谷店を出た。彼女が抱える大きな袋にはクリスマスケーキの箱が入っている。

今日はクリスマスイブ。渋谷の街路樹はイルミネーションの電飾で飾られ、日が沈む頃に街は冬の宝石箱となる。

 UN-SWAYEDの四人は明日のライブに備えて武道館で最終リハーサルの真っ最中。リハーサル終了予定は17時。

今夜は久々に五人揃って食卓が囲める。夕食のメニューは晴のリクエストですき焼きになった。クリスマスなのに……と思いつつ、すき焼きの材料は用意済みだ。

 帰宅した沙羅は、クリスマスケーキと共に購入したバウムクーヘンの包みを嬉々として開き、紅茶の準備に取り掛かる。

(ケーキは夜までお預けだけど、今はおやつの時間だもんね)

棚からアールグレイの茶葉の缶を取り出す時、同じ段にひっそり置かれたコーヒー豆の袋が目に留まった。未開封のそれはパッケージに珈琲専門店Edenの名前が刻まれている。
Edenのコーヒー豆の最後のストックだ。

(Eden《エデン》は閉店しちゃったんだよね。一度もお店に行けないままだったなぁ)

悠真や晴が訪れた新宿四谷にある珈琲専門店Edenはある出来事を境に閉店してしまった。