【Quintet】

 皮肉にも両親と同じ音楽の道で生きている沙羅は親の名前を隠しようがなかった。親の名前で評価をされるのが嫌ならば、音楽の道を止めるか、沙羅自身が親の名前を越えるしかないだろう。

『沙羅は自分の音色は何色に見える?』
「コロコロ変わるからわかんない。見えない時もあるの」
『俺には色聴はない。だけど沙羅の演奏は美琴先生の色に似ていると思うんだ。先生のヴァイオリンはとても優しい音だった。5歳の沙羅のピアノを初めて聴いた時も美琴先生と同じ優しい音がしたのを覚えてる。沙羅の演奏の中に美琴先生は生きているんだ』

こちらを振り向いた沙羅は大きな目をまばたきさせて悠真を見つめている。

『葉山美琴を宿した葉山沙羅の音色がある。世界中探しても葉山美琴の色を秘めたピアノを演奏できるピアニストは葉山沙羅しかいない。この意味、わかる?』

 素直に頷いた沙羅に悠真は顔を近付けた。唇が触れる寸前で身構えた沙羅が顔をそらし、悠真の唇は着地場所を失った。

『……沙羅? キス嫌だった?』
「ごめんなさい……ごめんなさい……」

沙羅は両手で顔を覆って泣き出した。亜紀子の話でも、圭織に弱点を突かれたことを打ち明けた時も泣きそうになりながらも泣かなかった沙羅が泣いている。

「星夜にキス……されて……拒めなかったの……。ごめんなさい」
『……そっか。星夜の様子でなんとなくわかってた』

 帰宅した悠真と星夜は一度も目を合わせなかった。沙羅の様子を尋ねた悠真に受け答えをしたのは晴だ。