【Quintet】

「あんな高級マンションの最上階に彼氏やそのお仲間と住めていいね。私も一度でいいからタワマンの最上階で暮らしてみたい」

 ここからだと目と鼻の先の沙羅のマンションが圭織のビニール傘から透けて見えた。強い風を受けて横殴りになった雨が沙羅の手にある圭織の名刺を湿らせる。

「でもあなたにあるのは親の名前だけ。音楽プロデューサーのお父様とヴァイオリニストのお母様の名前がなければ、あなたはただの大学生だもの。YUUMAもプロデューサーの娘と仲良くして損はないと思ったのよ。あなたとの交際もビジネスで役立つと見込んでの計算づくね」

雨が一層強くなった。音が大きな雨は不穏の前触れ。

「素敵なギタリストの彼によろしくお伝えください」

 今の渋谷はヴィヴァルディの夏みたいだと思った。そうやって、関係のないことを考えて精神を誤魔化さなければ立っていられなかった。

圭織の姿が視界から消えた沙羅の頬に、水滴が落ちた。