【Quintet】

『葉山の娘と別れる気がないのなら、何が起きても守る覚悟が必要になる。彼女がただの一般人ならともかく、親二人は名の知れた有名人だ。今は学生でもこの先、ピアニストとして顔と名を売るようになった時にお前との報道が出れば葉山沙羅の名も記事に載る。お前との交際も葉山夫妻の娘だからと嫌味を言われることもあるだろう。葉山美琴がそうだったようにね』

 ここで沙羅の母親の名を耳にするとは思わなかった。吉岡と葉山行成と美琴の夫妻は旧知の仲だと聞いたことがある。

『美琴さんも週刊誌の晒し者にされたことがあるんですか?』
『葉山もあれで色男だからね、言い寄る女は多かった。emperor解散後に顔を公表してからは週刊誌の餌食にされていたよ。美琴さんも十代の頃から絶対音感の美人ヴァイオリニストと騒がれていた。葉山が美琴さんとの結婚を発表した時は美琴さんが葉山のファンに嫌がらせを受けて大変だったんだ。葉山が家族と共にアメリカに拠点を移したのも悪質なファンや週刊誌から妻と娘を守るためだった』

美琴のヴァイオリンレッスンを受けていた当時、悠真はまだ小学生だった。子ども達の前で優しい笑顔を浮かべる裏側で美琴も人知れず泣いていたのだ。

『私が言いたいことはわかっているよな? お前達のためにかなりの額が動いている。ここまでお膳立てしてやったからには、ひとつのスキャンダルで足をすくわれては御免だよ』
『わかっています』

 社長室を出るまでは一切の感情を封じていた悠真も、ラウンジの自販機で買った缶コーヒーの蓋開けに苦戦するほどには動揺していた。