【Quintet】

 移り変わる車窓の風景に上野駅が出現した。上野駅付近のパーキングに車を停め、二人は手を繋ぐ。

『パンダは人気だから午前中に見るのがいいんだよ。今の時間ならまだ空いてるかな』
「パンダに早く会いたいなぁ」

二人分の入場券を購入して開園直後の上野動物園の門を潜った。

『ここに来るのは中学の遠足以来だな。10年振りか』
「私も二度目。前に来た時はお父さんとお母さんと一緒だったの。たぶん悠真と海斗と遊んでた時期。その後はアメリカで暮らしてたし、お母さんが死んじゃってからは一度も動物園には行ってないんだ」
『それで動物園に行きたいって言ったんだね。こういう場所は家族と一緒か恋人とのデートでもないと行きづらい』

 沙羅が初デートに動物園を選んだ理由を悠真はわかってくれていた。
動物園には必ず親子連れがいる。今も沙羅の横を小さな男の子を連れた両親が通り過ぎた。

母の死から10年が経っても、仲良さげな家族の光景は心が悲鳴を上げる。

『沙羅。今は俺がいるよ。ひとりじゃない』

 親子連れの後ろ姿を悲しげに見つめる沙羅と繋いだ手を、悠真は握り締める。握り返された小さな手を彼は決して離さない。

『いつか子どもが出来たらまた三人で来ようね』
「子ども……! そんなまだ……」
『俺は将来的にはそのつもりだよ。沙羅が俺を嫌いにならない限りはね?』

 嫌いにならないと言えるのは、付き合いたてのカップルにはありがちな常套句《じょうとうく》。だけど沙羅は悠真を嫌いにはならない確信があった。

(嫌いになんてならないよ。大好き過ぎて、これ以上好きになったらどうなっちゃうんだろうって怖いくらいなんだから……)