【Quintet】

 二人を乗せた車はマンションを出発して渋谷の街を走行する。

 沙羅は運転席の彼を盗み見た。悠真の服装は白のTシャツに薄手の黒のカーディガンを羽織り、黒のテーパードパンツ。
足元はお洒落なグレーのスニーカーを合わせている。装飾品は腕時計のみ。

顔とスタイルのいい彼はシンプルな組み合わせでも様になる。

『来年の夏に全国ツアーをやる話が進んでるんだ』
「全国ツアー……! 凄いね!」
『本決まりになるのは武道館の動員次第だけどね。場所の候補は東京、大阪、愛知、福岡、北海道。ツアーが決まれば、来年は沙羅をひとりにしてしまう時が多くなる』

 車が首都高に入った。ここから港区と中央区を横断して、向かう先は台東区だ。

『今後は音楽番組の収録も加わると思う。こんな風に、二人で過ごせる時間も減ってしまうかもしれない』
「皆が夢を叶えて生き生きとした姿を見られるのは嬉しいよ。だけどちょっと寂しいかな……」

 ツアーで全国を回るなら、東京公演以外は現地に宿泊の日がほとんどだ。母が生前の頃もヴァイオリンの公演で家を留守にする日はあった。

ひとりで過ごす夜は慣れているつもりだった。でもこの半年間で家に四人がいるのが当たり前となった今は、ひとりにされるのは寂しく感じる。

『12月のライブを境に俺達を取り巻く環境は変わるけど、沙羅は今のまま変わらないで。変わらず俺の側にいて、俺達を待っていて欲しい。沙羅がいる家が俺達の帰る場所だ』
「うん。皆が疲れて帰って来た時に、私はお帰りなさいって言うんだ。それが私に出来ることだから」

悠真には変わらないでと言われても強くなりたかった。また、ひとりで夜を越えられるように。