【Quintet】

 廊下に並ぶ四つの部屋の一番奥の部屋の前で沙羅は深呼吸を繰り返した。
扉のプレートの名前は沙羅が見える彼の音の色と同じ水色。

他の三人の部屋には入ったことがある沙羅も、悠真の部屋に入るのは初めてだ。半年一緒に暮らしていても彼の部屋に入る機会は一度もなかった。

 ノックをしても返事は聞こえなかった。開けた扉の隙間から彼女は室内を覗いた。

「……悠真。入っていい?」
『いいよ』

 部屋には個性が出る。好きな物で飾り付けされた星夜と晴の部屋、モノトーンでシンプルにまとめられた海斗の部屋。

悠真の部屋には大きな本棚とデスクがあり、彼の視線はデスクのパソコンに向いている。

『星夜と飯行ってきたって?』
「バイクでお台場まで連れて行ってくれたの」

 振り向かない背中が寂しかった。今すぐ彼の大きな背中に抱き付きたい。
こっちを向いて欲しい。顔が見たい。抱き締めて欲しい。恋の自覚が芽生えた途端に人は強欲になる。

「昨日はごめんなさい。女の人とお酒飲んで来るのもお仕事のひとつなんだよね。疲れて帰って来た悠真を困らせて……」
『そうじゃない。俺は……沙羅に嫌われるのが怖かった。本当の俺を知って、軽蔑されたくなかったんだ』

 振り向かない背中は見えなくなって、代わりに彼の広い胸板が沙羅の視界を覆った。好きな人の両腕に包まれた幸福の圧迫感。

『付き合えばお互いに嫌な面も見えてくる。喧嘩もする。良い顔ばかりを見せていられなくなる』
「どんな悠真でも好きだよ。悠真が好き」
『……俺でいいの?』
「悠真がいいの。初恋だからじゃないよ。悠真は優しいけど、少し意地悪で強引で、計算高いところも私は知ってる。そんな悠真が大好き」

 常に周りを見て最善で最適な動きを計算する彼。沙羅だけではなく海斗と星夜と晴の心を気遣う彼。

誰よりもUN-SWAYEDの音楽に愛を注ぎ、UN-SWAYEDの未来を考える彼。
だからこそ、ひとりで背負いこんでしまう彼。
沙羅は知っている。悠真は誰よりも愛情深い人だと。