【Quintet】

 窓から差し込む西日を背にして奏でるギターのメロディは悲哀のラブソング。近付く海斗の気配に気付いた悠真は弦から指を離した。

『星夜が沙羅連れ出してる。二人で晩飯食べてくるってさ』
『……そう』
『星夜は女の扱い上手いし案外、星夜と上手く行ったりしてな。そうなったらどうする?』

海斗の問いかけに悠真は答えない。茜色に染まる音楽スタジオの中で無言の兄弟が睨み合っていた。

『……いつまでも余裕な面してんじゃねぇ! 沙羅が最後に選ぶのが兄貴ならそれも仕方ねぇって思った。兄貴は俺の憧れなんだよ……。でも沙羅を傷付けて平然としてる兄貴は俺が憧れた兄貴じゃない。今の兄貴の腑抜けたギターでは俺は歌えない。歌いたくもない』

 UN-SWAYEDの音の要は海斗と悠真の心の同調。寸分の狂いもない悠真のギターのメロディに海斗が安心して声を乗せられるのは、信頼関係があってこそ。
今の悠真のギターでは海斗の歌声を引き出せない。

『兄貴が沙羅を手離すなら俺が沙羅を捕まえる。捕まえて二度と離さない』
『……誰が手離すって言った?』

悲壮に溢れた弟の独白は兄に覚悟を決めさせるために放った一本の矢。その矢は的確に悠真の心の奥を突いた。

『海斗。今のは宣戦布告と受け取っていいのか?』
『やっといつもの腹黒の顔に戻ってきたな』
『沙羅にどこまでした? 抱いたのか?』
『さぁね。沙羅に聞いてみれば? 沙羅達は9時までには帰るって言ってた。それまでに家帰って来いよ。クソ兄貴』

 大股にスタジオを出ていく海斗を横目に見送り、悠真は今日何度目かの溜息をついた。

『クソは余計なんだよ。……お人好し』

 海斗も星夜もお節介のお人好しだ。悠真を焚き付ければ自分達の出る幕はないとわかっているのに。
すべて沙羅とUN-SWAYEDのため。本当にお節介でお人好しな弟達だ。

覚悟を決めた悠真の瞳にはもう迷いはなかった。