【Quintet】

 寂しげに佇む晴の手を沙羅は握った。握り返してくれる大きな手は温かい。

『昔はすげぇ仲良かったのに、なんで律とあんなにこじれちまったんだろうな……』
「律さんは晴が眩しかったって言ってたね」

 渋谷の湿った風が二人の髪や服を揺らす。夕暮れの太陽は空を覆う分厚い雲に遮断されて地上からは見えない。

友達だけど、友達だから、律は晴に嫉妬した。由芽の恋心の相手の晴が眩しかった。

『俺はそんなにキラキラしてる奴じゃないんだけどな』
「ううん。晴はお日様だよ。それもね、秋の太陽なの」
『秋の太陽?』

晴と繋いだ手を大きく振って歩く沙羅は微笑した。晴の温かさは夏のギラギラとした灼熱の太陽ではない。

「少し肌寒くなってきた秋の日向って、ぽかぽかしてホッとするでしょ。私にとって晴はそんな人。ホテルに晴が来てくれた時もホッとしたんだよ」

 そこにいるだけで人を安心させる温かさは晴の音色にも宿っている。

悠真のギターと星夜のベースの後ろで刻まれる晴のドラム。晴の音が四つの音色を一纏《ひとまと》めにして支えているからこそ、歌い手の海斗と演奏者の悠真と星夜、皆が安心してそれぞれの力を発揮できる。

手を繋いで家路を辿る二人の姿は兄と妹のよう。

『律に脅されたからって彼氏じゃない奴とは二度とラブホに行くなよ。沙羅はあんな場所に行ったら絶対ダメ。円山町は近づいちゃダメ。わかった?』
「はぁい。晴ってお父さんみたいだね」
『そこはお兄さまって言ってくれよ……』

 沙羅が笑うと晴も笑う。お日様の人と手を繋ぐ沙羅の心に流れるのはヴィヴァルディの秋のメロディだった。