【Quintet】

『律も“普通”をあんなに嫌ってたのにな』
『大人の決めた“普通”は大嫌いだ。でも男の普通は違うじゃん。女と同じ家にいて理性が保てるか?』
『俺は沙羅のことは家族だと思ってるし、他の奴らもお前が考えてるよりも沙羅への想いは純粋だ。沙羅を欲の捌け口にはしない。沙羅はオヒメサマじゃなくて俺達の家族なんだよ』

 回収した写真とネガフィルムをバッグに入れる時、晴に紙とペンを貸してと言われた。沙羅は手帳のメモページを破ってボールペンと一緒に渡した。

晴が走り書きしたメモは律の手に渡る。律は怪訝な顔でメモを見つめていた。

『そこに書いた電話番号は氷室龍牙さんの番号だ。龍牙さんには律のこと話してある。仕事のことも相談したら力になってくれるよ。連絡待ってるって言ってた』
『ブラックオニキスと敵対してた黒龍の初代リーダーを頼れって言うのか?』
『今さら敵対グループも関係ねぇよ。俺達も年齢としては大人だけどまだまだガキで青臭い。仮面張りつけた嘘臭い大人に利用されたりもするよな。けど信じられる大人もいて、大人になるのもそんなに悪いもんでもないって最近は思う』

 凍える日陰を温かく包み込むのは太陽の役目。そんな彼らを見守る夜空の星が由芽。

 三人は一緒にホテルを出た。渋谷の小路《こうじ》で別れた一人と二人。遠ざかる律の背中は小さく丸まっていた。