【Quintet】

『……沙羅。一瞬でいい。目、瞑《つむ》ってろ』

 静かに放たれた晴の言葉に沙羅は困惑しつつ従った。閉じた瞼の向こうで律のうめき声が聞こえる。
沙羅が目を開けた先には、腹部を押さえて膝から崩れ落ちる律と仁王立ちの晴がいた。

『沙羅を狙ったことは許せねぇんだ。これは俺達四人分の怒り』
『……腕は……鈍ってねぇな……』
『これでも黒龍のNo.3張ってたからな。お前が沙羅にやったことは由芽を事故に追いやった奴らと同じだ。アイツらと同じとこまで堕ちてんじゃねぇよ』

 晴の渾身の一発は赦しの証。

自分と誰かを守るために拳を使えと悠真は言った。悠真があえて沙羅を、と言わなかったのは“誰か”に律も含まれているからだと晴は察した。
律とはいつもこうすることでしか解り合えなかった。由芽が宇宙一の不器用女なら、晴と律も宇宙一の不器用男だ。

 苦笑いして咳き込む律は写真を床に放り投げた。夜空の封筒に同封されていたものと同じ写真とそのネガフィルムだ。

『ソレもういらねぇから。本当はオヒメサマ人質にしてバンド辞めろって脅すつもりだったんだ。晴が脅しに乗らなくても人気バンドのドラマーが元暴走族って週刊誌にネタ売ればいい金儲けになるしな』
『お前の考えることなんて悠真が全部お見通しなんだよ。うちの社長が手を回してるはずだ』
『やっぱりアイツ苦手。……まじにその子と何もねぇの? 女と一緒に暮らしてたら普通はヤるだろ』

 散らばった写真を拾う晴と沙羅を律は呆れた眼差しで眺めている。彼は晴の一撃を喰らった腹部をまだ押さえていた。