【Quintet】

 今と比べれば演奏技術や海斗の歌声の拙さはあるが、メロディや詞はUN-SWAYEDの根幹と同じだった。

『お前らが住んでるあの金持ち専用のマンションの十五階に週末になると俺のバイト先にピザ注文してくる客がいるんだ。どっかの会社の社長らしいけど、ピザ頼んで毎週ホームパーティー。俺は毎週、その社長の家にピザを届けてた。……4月最後の土曜の夜も俺はあのマンションにピザを届けた。その時、帰って来たお前とすれ違ったんだ』

 4月最後の土曜が何日か沙羅は考えた。4月の末は星夜と沙羅の婚約騒動と星夜の脱退騒動があって慌ただしい記憶しかない。

『お前は俺とすれ違っても俺に気付きもしなかった。当たり前に受付の人間に頭下げられて、当たり前にオートロックの内側に入って当たり前にエレベーターに乗っていった。ピザの箱抱えた俺に見向きもしなかったんだ』

マンションのエントランスで宅配ピザ屋の人間とすれ違っても大概気に留めない。それが何年も音沙汰のない知人であったとしても話しかけられなければ気付けないだろう。

『あの時、俺がどれだけみじめだったかわかるか? 俺達は由芽を失った。同じものを失ったのにどうして俺は日陰でお前は日向にいられる? お前だけやりたいことやって成功して俺はバイトで食い繋いで……っ!』