【Quintet】

 律の“普通”はそうかもしれないが、四人の男と同居していても律が想像するような乱れた男女関係にはならない。

「晴とは律さんが想像しているような関係じゃありません。他の人とは……キス……をしたこともあります。でも晴は違います。晴はいつも私を気遣ってくれる、困った時は話を聞いてくれる、あったかい人です」
『……あんた、晴が族に入ってたって知ってる?』
「聞きました。それは律さんを止めるためだって」
『そんなの建前だ。晴は俺と敵対するグループに入ってグループを潰しやがった。アイツはいつもそうだ。俺の邪魔ばかりする』

律の声色に宿った晴への敵意。思春期を共に過ごした晴を彼はなぜ敵視する?

「律さんは晴と友達なんですよね?」
『友達ねぇ。都合のいい言葉だよな。友達だから、友達でいたいから……そんな綺麗事は聞き飽きた』

 それからの律との無言の時間の共有は苦痛でしかなかった。律から吐き出される煙草の匂いに目眩がする。

意識が朦朧としかけた沙羅は扉が叩かれた音で覚醒した。
律が開けた扉から現れたのは晴だ。

『よう。会うのは何年ぶり?』
『……由芽が死んだ時以来だな』
『7年振りか。まぁ入れよ。オヒメサマがお待ちかねだ』

 部屋に入った晴は一目散に沙羅に駆け寄った。沙羅の小さな身体は晴の両腕に包まれて、律から隠すように覆われた。

『沙羅!』
「晴、ごめんなさい……」

じわりと溢れる沙羅の涙が晴の胸元に染み込んでいく。晴が纏う柑橘系の香りは太陽と同じ匂いがした。