【Quintet】

 車内に聴こえる吐息の音。沙羅の唇を離れた星夜の唇が彼女の首筋に近付いた。

「そ、それは待って……っ!」
『跡はつけないよ。なぁんか悔しいからちょっと抜け駆けさせて?』

 何が悔しいのかさっぱりわからない沙羅を置いてきぼりにして、彼は沙羅の首筋に口付けを落とした。

首筋へのキスはくすぐったいのに恥ずかしい。鼻先に触れた星夜の柔らかな髪からはフローラルの香りがした。

 一台のバイクが車の横を通り過ぎる。沙羅の首筋に顔を埋めていた星夜は遠ざかるバイクを横目に捉えた。

沙羅は気付いていないようだが、あのバイクは家を出た時からずっと後ろにいた。素性を世間に公表していない現状で週刊誌にマークされる覚えはない。

 沙羅とキスをしたのは時間稼ぎの意図もあった。業を煮やしたバイクの主がこの場を去るのを星夜は待っていた。
赤い顔をした沙羅を送り出した星夜は、携帯を取り出してメール画面を開く。悠真への報告メールだ。

(俺も純夜がいなければ、ひとりぼっちだったんだろうな)

 純夜と海斗が友達だったから海斗と出会えた。海斗の兄の悠真が音楽をやっていたから星夜も音楽と出会えた。

星夜がUN-SWAYEDのSEIYAの道を選んでいるのは元を辿れば純夜がいたから。

 この世界のどこかに純夜はいる。だから彼は今日も音を奏でる。
消えた兄が、どこかで自分達の歌を聴いていてくれると信じて。