【Quintet】

 二階に上がった海斗に続いて晴も重たい腰を上げた。

『俺も支度してくる』
『晴。平気か?』
『……なぁ悠真。もしもの時は俺にすべて任せてくれないか?』

 晴は沙羅の前では彼女が気にしないように普段と変わらない様子で接していた。
冗談を言って星夜とバカな漫才もする。沙羅もそれに付き合って笑っていた。

今の晴は笑わない。これは本気の顔だ。

『もちろんお前との約束は守るよ。この手で人は殴らない、喧嘩しない』

5年前、所属事務所と契約した時に晴が悠真と交わしたひとつの約束。

 ――“音楽を届けるこの手で人を傷付けないこと”――

あの約束を晴は守り続けている。音楽の道で生きる覚悟を決めた二人の約束だ。

 しばし沈黙で互いを見据える晴と悠真。“もしもの時”の意味は律との対峙の時。
由芽を失って自暴自棄になった律は今も由芽の幻を追いかけているのだろうか。光を失くした者は今も暗闇の底無し沼でもがいているのだろうか。

 先に沈黙を破ったのは悠真だ。

『あの約束に追加だ。自分と誰かを守るために拳は使え。それが黒龍の流儀だろ?』

晴は少し驚いた顔を見せた後、ニッと口元を上げた。

『まさか悠真が黒龍の流儀を語る日が来るとはね』
『俺も黒龍とはそれなりに付き合いあったからな』
『そういや、黒龍時代のアキさんがお前と似てるって龍牙さんが言ってたことがあったよ』

 アキは黒龍初代リーダー、氷室龍牙の相棒で黒龍初代No.2の男。本名は香道秋彦《こうどう あきひこ》。
黒龍卒業後に刑事になったアキは2年前に殉職している。