【Quintet】

 差出人不明の夜空の封筒を携えて十九階の我が家に到着する。二階の音楽室でピアノの自主練習をしている時も夕食の支度を始めた時も、例の手紙の存在が頭から離れない。

今夜は悠真と星夜が19時に帰宅、海斗と晴が21時に帰宅の予定。海斗と晴は夕食を済ませてくるから作るのは三人分だ。
じめっとして蒸し暑い今日のディナーは和風冷製パスタ。サイドメニューはサーモンのカルパッチョ。

 誰宛の郵便物かわからない夜空の封筒はリビングのテーブルに未開封で置いてある。開封は四人が帰宅してからの方が良さそうだ。

 19時を少し過ぎて悠真と星夜が帰宅した。

『ただいまーっ!』
「お帰りなさい。星夜、大学から郵便来てたよ。テーブルに置いてある」
『サンキュー。……沙羅、こっちの封筒は?』

母校の封筒を手にした星夜はもうひとつ置かれた夜空の封筒を指差した。パスタの準備を始めた沙羅はキッチンからリビングの方を見る。

「うちの郵便受けに入ってたの。宛名も差出人の名前もなくて、誰宛なのかわからないから困っちゃって」
『差出人不明の手紙って……最近の流行り?』

夜空の封筒を手にした星夜は悠真と顔を見合わせた。夜空の封筒は悠真の手に渡る。

「流行りって?」
『うちの事務所、今ちょっと大変なんだよ。本庄玲夏宛にヤッバイ手紙が来ててね。脅迫状みたいなヤツ』(※)

 本庄玲夏はUN-SWAYEDの所属事務所の先輩女優。20代女優では人気、実力共にナンバーワンの売れっ子だ。
(※ 早河シリーズ第四幕【紫陽花】の事件)

「脅迫状? 大丈夫なの?」
『社長が手を打つって言ってたから大丈夫だと思うよ。それより今はこれだ。この封筒どこかで見たような……』

 悠真は手にした夜空の封筒を見下ろして顔をしかめた。