【Quintet】

 キャンプ場内の大浴場で入浴を済ませた一同はコテージで就寝時間を迎えた。コテージの一階と二階に分かれて布団が敷かれ、一階の男性陣は電気を消してもまだ騒がしく会話を続けていた。

悠真の隣の布団が動く気配がした。隣は隼人の布団だ。

『隼人どうした?』
『外で煙草吸ってくる。悠真も行くか?』
『……そうだな』

 ボーカルの海斗の喉を気遣って悠真も隼人も海斗の前では煙草を控えている。
二人はコテージのウッドデッキに出た。

『花火の時、俺達に隠れて美月ちゃんとキスしてただろ』
『ああ、バレてた?』

悪びれもせず澄まし顔で隼人は煙草を咥えている。

『バレバレ。あんな誰に見られているかわからない場所で襲うなよ』
『気付くとしたら悠真くらいだと思ってさ。……晴は大丈夫か?』

 隼人が何を言いたいのか悠真は察した。吐き出した二人分の紫煙が夜空に紛れて消える。

『晴の本音は晴にしかわかんねぇからな。大丈夫かどうかは俺にもわからない。俺でさえ、たまに美月ちゃんが由芽《ゆめ》に見える時があってドキッとする』
『この世には顔が似てる人間が三人いるって言うしな』
『そうだな。美月ちゃんを見る晴は辛そうな顔してる。でもどんなに似ていても美月ちゃんと由芽は別人だ。死んだ人間は生き返らない』

 晴が抱えている悲しみを沙羅も美月も知らない。悲しみの理由《わけ》を知る悠真と隼人が吐いた溜息も煙草の煙に乗って闇に流れる。

『死んだ人間は生き返らない……か。美月と晴って似た者同士かもしれねぇな』
『3年前の美月ちゃんの元カレのことだろ。案外、美月ちゃんは理解を示してくれそうなのに晴は頑《かたく》なに美月ちゃんには由芽のことは言わないでくれって言うんだよ。俺達は晴の気持ちを尊重するしかない』

 友人であっても不用意に踏み込めない領域を彼らはわきまえている。友人だからこそ相手の想いを汲んで待つ。

いつか、晴が立ち直れるその日を。