【Quintet】

 散歩を終えてコテージに戻ってきた沙羅と隼人から数分遅れて美月と海斗もコテージに到着した。コテージの前で待ち構えていた星夜が両手を広げる。

『みっつきちゃぁーんっ! おかえり! さぁ、俺の胸に飛び込んでおいでっ!』
『こら星夜。隼人がキレるから止めろ』

 帰って来た美月に抱きつこうとする星夜を晴が強制連行する側で、沙羅は目を見張った。美月と話をしている海斗が笑っている。
あの無愛想俺様海斗の得意技の意地悪な笑みではない。とても優しい笑顔だった。

(海斗って美月ちゃんの前だとあんな風に笑うんだ。私の前ではにこりともしないくせに)

無性にモヤモヤするのはどうして?
このモヤモヤは美月に対してではない。沙羅の知らない海斗が存在することと、それを許せない自分自身に対してのモヤモヤだった。

 この後は川沿いで花火パーティーだ。手持ち花火に次々と火が灯り、音を立てて色とりどりの閃光が闇夜を切り裂いた。

「綺麗だねっー!」
「うん。ちょっと早いけど夏になった気分だね」

線香花火の火花が沙羅と美月の足元で踊る。けれど沙羅の目に映り込むのは線香花火の火ではなく、花火を持って子どもみたいに無邪気に騒ぐ海斗の姿だ。

(なんで海斗ばっかり見ちゃうんだろ……)

 隼人にも指摘されたが、昼間の川遊びではわざと海斗を見ないようにしていた。でも今はしきりに海斗を気にしている。

「沙羅ちゃん。火、消えてるよ」
「えっ……」

はしゃぐ海斗をぼうっと眺めていた沙羅は手元の線香花火の寿命に気付かなかった。