「なぁ飯田」
「はい、いかがなさいましたか?」
「なんか変じゃね?」
「…と言いますと?」
一緒に行くって言ってたくせに先行くとか…
そもそも、金澤の所に行くつもりだったのか?
なんかわかんねぇけど、すごく胸騒ぎがする。
ヴーッヴーッ
「どうした?」
「坊っちゃま!!大変でございます!!」
牧さんからの電話。
あぁ、この胸騒ぎは当たってたんだ。
内容を聞かなくてもわかってしまう。
「父さん…だな?」
「はい…。旦那様が急に戻ってらっしゃいまして…!」
牧さんはかなり焦っている。
急に?
いや、違う。
「わかった。すぐ戻る」
俺が電話を切る前に、飯田はすでにUターンをして引き返していた。
「10分以内に戻ってみせます」
「頼む」
ほんと恐ろしいな、あのくそオヤジ。
いつからバレてたんだよ。
いおー…!!
————————————
ダイニングに暁おとと私。
そして暁おとの付き人?的な人が3人と、私のそばには牧さんがいてくれている。
「緊張しなくていい。温かいうちに飲みなさい」
温かい紅茶。
いや…でも、今は飲み物飲める気分じゃないよ。
ニコッと笑っているけど、目は笑っていない気がする。
なにより、威圧感というか冷たさというか……
怖い。
なんだろう、、、とにかく怖い。
怒られるとか、そういう怖さじゃなくて…。
もっと恐ろしい…
「伊織さん。ダンスパーティーは楽しめたかな?」
「はっはい…!」
やっぱりわかってる。
ゴクンッと唾を飲み込んだ。
「実はあの学校は私の母校でね。数十年ぶりに学校に行けて私も楽しめたよ」
「そうなのですね…」
何が…言いたいの?
どうせ、私の家柄とかもわかってるんでしょ?
家柄とかそもそもないし。
ただの庶民だし。
貧乏なだけだし。
「あの学校はね、伝統ある由緒正しい学園なのだよ」
「………」
何言われても受け止めるんだ。
暁斗くんが私を助けてくれた。
だから、今の私がいる。
だなら、次は私が私に出来ることで助かるんだ。
「時間がないから単刀直入に言う」
「はい」
「なぜきみのようなネズミが、あの学園にいたんだね?」
きた。
「この屋敷にもどうやって足を踏み入れた?」
冷たい目。
飯田さんが言っていたことは、こういうことなのか。
暁斗くんは、こういう言葉から私を守ってくれようとしたんだね。
やっぱり優しい人。
「申し訳ありませんでした」
そんな暁斗くんにかかる迷惑を少しでも減らせるように。
「私が無理を言いました。暁斗くんは何も悪くありません」
私は席を立ち、深々と頭を下げた。
「今すぐ出て行きます。本当に申し訳ありませんでした」
「伊織…さん」
後ろから牧さんの掠れるような声が聞こえた。
「当たり前だ。今すぐにだぞ」
「はい」
こうなってよかった。
いつまでも暁斗くんに甘えるわけにはいかなかったんだから。
「まったく…暁斗の奴も変なネズミに引っかかりおって」
なによ、さっきからネズミネズミって。
「何か暁斗の弱みでも握ったのか?金が欲しいんだろ?好きな金額を言いなさい。言い値をやろう。その代わり、皆実家には二度と関わるな」
は…なにそれ…
「いくらでもいい。きみが一生働いても稼げない額を渡してあげようか?」
我慢して、私
聞き流せば良いんだから
「ご家族もその方が喜ばれるんじゃないか?これから家を失うんだから」
ドクンッ
「旦那様!!」
「牧さん!…大丈夫ですから」
お母さんたちは関係ないのに…
「暁斗も変わった暇つぶしを覚えたもんだ…」
プチンッー…!
「暁斗くんはあなたみたいな人じゃありません!!すごく綺麗な心の人で……こんな私を助けてくれたんです!!!」
ムカつくムカつくムカつく!!!
大切な家族をバカにしないでよ
暁斗くんを
優しい暁斗くんをバカにしないでよ
「私のことはいくら言っても構いません。だけど…家族や暁斗くんのことは…許しません」
悔しいから泣きたくない。
なのに、涙が止まらない。
「暁斗くんに…謝って!!!」
「会長に向かって何という言葉遣いをー…!!!」



